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池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

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【第142便】「サグラダファミリア教会」

無事に一週間の航海を終えた僕はバルセロナでタラ号と別れを告げ、残りの時間を観光に費やすことにしました。11月の半ばだというのに真っ青な空から降り注ぐ暖かく明るい陽射し、アメリカとも日本とも全く違うヨーロッパの街並み、そこに無事に船旅を終えたという安堵感も手伝って久しぶりに心が軽く、全てのものが新鮮で魅力的に映ります。

街中を網の目のように張り巡らされた石畳の細い路地には小さな雑貨屋やカフェ、レストランが品よく並び、歴史的な中世の建物との調和も見事。賑やかな雰囲気でありながら、どこか時間がゆっくりと流れているような、不思議な感覚に包まれます。


そんな歴史情緒たっぷりのバルセロナの中でも最も有名な建築物の一つがサグラダファミリア教会。建築家アントニオ・ガウディが手がけた、着工から142年たった現在でもまだ建設中というスペインを代表する歴史的建造物で、世界遺産にも登録されています。

実は僕はヨーロッパの歴史的建造物と称されるものにはさほど興味がなく、実際にいくつか訪れた時も「荘厳だな」という感想はあってもそれ以上のものはありませんでした。

しかしこのサグラダファミリアは違ったのです!


地下鉄から地上に出て、初めて仰ぎ見たその教会の第一印象は忘れることができません。まさに岩山と教会が融合したかのような荘厳さと雄大さ、そして奇怪さ。

その異形にあっと驚き、近づくにつれてしだいに姿を現す外壁に施された無数のディテールに度肝を抜かれ、しばし放心状態。あまりのことに思考が追いつかない中で、心はワクワクで震えが止まりません。明らかに普段の倍くらい眼を見開いた状態で教会の中に入るとさらに驚愕!なんとそこには森が広がっているではありませんか。

正確にはセロリのような形の巨大な柱が林立し、それらがこれまた背骨のような花のような光の輪のような、なんとも形容し難いデザインをした天井へと伸びているのですが、それがまさに森林で木立を見上げているのと同じ感覚に僕をいざなうのです。

さらには建物内の左右にあるステンドグラスからは光が燦々と降り注ぎ、教会内を明るく神秘的に照らしています。

なんという創造性!しかもこの教会内部の有機的な形状は、それぞれが幾何学形態の応用で成り立っているというからさらに驚きです。

図形、色彩、空間、光、あらゆる要素が演出として加えられ、それらが完璧に調和してこの壮大な空間を成立させているのです。そしてなによりも、徹底したディテールの集積が人の心をここまで揺さぶるのでしょう。


神は細部に宿る。

同じディテールを表現する者として、これほどまでに勇気をもらったことはありませんでした。
(佐賀新聞2024年2月6日号掲載)
【第142便】「サグラダファミリア教会」_b0290617_15161609.jpeg

次回は3月中旬の更新を予定しています。

《展覧会情報》
Manabu Ikeda: Flowers from the Wreckage
会期:2024年2月2日〜5月26日
会場:クリーブランド現代美術館(moCa Cleveland)



# by mag-ikeda | 2024-02-19 15:37

【第141便】「化学探査船タラ号 後編」

夜が明けると右側にはアフリカが広がっていました。左側にはスペインの国土が見えます。ここはヨーロッパ大陸とアフリカ大陸に挟まれたジブラルタル海峡。穏やかな波の向こう、おぼろげに霞む初めて見るアフリカの地形は急峻で迫力があり、その先に広がっているであろう野生動物の王国を連想させるには十分でした。

風もなく海はいたって穏やか、よく見ると船の舳先には波とじゃれ合うようにイルカ達の姿も。


今回は船の上での1週間の生活とあって、いつでも描けるようにスケッチブックにペンや色鉛筆などの基本的な画材は持ってきてはいました。

しかしそれは1日目にして使わないことに決めました。波が穏やかとはいえそこは海、画面に向かいだすとやはりすぐに酔ってしまいます。また絵を描き始めるとどうしても画面に集中してしまい、貴重な目の前の景色を見逃してしまうと思ったからです。

今一番大事なことは絵を描くことより海を全身で感じること。2019年から取り組んでいる新作のために本物の海を見たいという願いがようやく叶ったのだから。

波の表情はもちろん、その大きさや匂い、音や揺れまでその全部を身体中に染み込ませることはまさにここでしかできないことで、それを持ち帰って新作に注ぎ込む。これこそがこのタラ号に乗り込んだ唯一の目的だからです。

そうしてほぼ毎日、朝から晩まで、食事や日課以外の時間は船のデッキでひたすら海を見続けました。


…と書くといかにも集中して海と向き合ってるように聞こえますが、実際それ以外にやる事がないというのも正解で、狭い船内、ウロウロしようにも居場所はないしネットは制限されている、携帯や本を読んだところで酔っちゃうし、他のメンバーたちは皆それぞれ自分の仕事で忙しい…

となれば外で海を眺めるよりほかないのです。

いつも制作や家事に追われて時間が足りないと嘆いてるマディソンの日常に比べ、この時間の有り余り方は一体なんなんでしょうか。学生の頃に戻ったみたいです。

海を眺めるくらいしかやることがないなんて、忙しい大人にとってこんな贅沢ほかにないかもしれません。

朝もやの中、晴れた日中、風やうねり、潮の流れなどによって海は刻々と表情を変えていきます。そして真夜中の見張りでは、見上げれば満天の星空、対照的に眼下には身のすくむような真っ黒な海面。感動と恐怖の狭間で人間という存在がいかに小さく儚いものか、見せつけられたような気がしました。

そして思わぬ副産物とでもいうか、これだけ遠いところを眺めていたおかげで結果的に日頃酷使し続けている眼をしっかりと休めることができたのも大きな収穫でした。


こうして長かったようであっという間だった僕のタラ号の航海は、1週間目の朝、目的地のバルセロナに無事到着して終わりました。

さあこれから。

身体に海が入ってる今のうちに、少しでも早くペンを取りたいと思っています!

(佐賀新聞 2024年1月9日号掲載)

【第141便】「化学探査船タラ号 後編」_b0290617_18503254.jpg

次回は2月中旬に更新予定です。






# by mag-ikeda | 2024-01-16 18:52

【第140便】「化学探査船タラ号 前編」

タラ号と聞くと、魚のタラ、佐賀の人だと太良町を連想する人もいるかもしれませんが、これはフランスの船なのです。もともと南極検などで使われていたこの船をフランスのファッションブランド「アニエス・ベー」が買い取り、マウリ語で「天国の道」という意味「Tara」という名をつけて化学探査船として再生させました。

今では世界各国の科学者を乗せて世界中の海を数ヶ月から数年かけて航海をしながら、海洋プランクトンやマイクロプラスチックなど、海洋環境に関するさまざまな調査を行ない、環境破壊や気候変動が我々にもたらす影響を世の中に広く発信しています。

またタラ号のユニークな点として、科学的な論文だけではなく、アートの力で環境問題を世の中に伝えるという観点から、アーティストも一人、科学者と一緒に乗船します。アーティストの目線で見た海の実態を作品として人々に発信する。アートと科学の両方から世の中に訴えかけるのです。

今回僕は光栄にもその一人として船に乗る事ができました。


僕に振り分けられたのはスペインの南に位置するカディスという港町からバルセロナまでの1週間。ちょうど東の海岸沿いに地中海を上がっていくルートです。

期間としては短いですが、スペインに行くのも、そして1週間の船での生活も僕にとっては生まれて初めて。緊張と不安を胸にシカゴからマドリードの空港まで約8時間、そこから新幹線で6時間を経て、カディスの小さな港でタラ号は僕を待ってくれていました。

タラ号の全長は約40メートルあり、船としては中型ながらさすが探査船、船内には顕微鏡やサンプルを収集するための装置などが並べられ、海上に浮かぶ研究室のようでもあります。

船員室にはそれぞれ小さな二段ベッドが付いていて、トイレやシャワー室、洗濯機、そしてキッチンの横には大きなテーブルが備え付けられ、ここで食事だけではなく研究やミーティングも行われるようです。

メンバーはキャプテンやコックさん、メカニックやタラ財団関係者など僕を入れて11名。

イカつい海の男達だらけかと思いきや、女の子も多く、僕ともう一人を除いては全員フランス人。フランス語が中心ですが英語も話してくれるのでコミュニケーションは問題ありません。

そしておもしろいのが全員に毎日の日課があること。食事の準備や後片付け、トイレ掃除や夜の海上の見張りまで、キャプテンもアーティストもみんなが平等に分担するのがタラ号スタイルなのです。

そんなこんなで始まった船の上での共同生活。これからいったいどんな体験が待ち受けているだろう…。

期待と緊張ではち切れそうな僕を乗せて、タラ号はカディスを出発したのでした。
(佐賀新聞 2023年12月5日号掲載)
【第140便】「化学探査船タラ号 前編」_b0290617_13330356.jpg
次回は2024年1月中旬の更新を予定しています。

# by mag-ikeda | 2023-12-16 13:33

【第139便】「個展、閉幕」

6月から始まったウィスラーでの個展は4カ月の会期を終え、先月無事に幕を下ろしました。

ウィスラーに滞在したのは夏の間の3カ月間でしたが、すべてが新しい体験の連続で、数え切れないほど多くのことを学びました。「海外で個展を開く」というと、あたかも僕が開いたように思われますがそうではありません。この個展を作り上げるために美術館がどれだけの時間と労力と資金を使い、またボードメンバーやギャラリー、アートコレクターの方々の支えと協力がいかに重要だったかということを今回知りました。

 期間中毎週のように行われた子供や大人向けのアートクラスに先生として参加したことで、アーティストの言葉や行動が相手に与える影響を考えさせられました。周囲の人たちからの温かいサポートに助けられたことも大きかったし、英語も含めて来場者やスタッフの方々との会話やコミュニケーションの大切さなど、ただ単に作品を見せたということの何倍もの貴重な経験をこの展覧会から得た気がします。

 ウィスラーはアウトドアに特化した観光の街で、自然やウインタースポーツが大好きな日本人の方もたくさん住んでおり、小さな街の中では毎日のように顔を合わせます。同じ日本人が個展を開いているというだけで地元の皆さんがたくさん集まってくれ、食事に誘ってくれたり釣りに連れていってくれたり、本当に助けていただきました。

 海外に10年以上暮らしていても、やはり同じ日本人同士でしか共感できない感覚、日本人というだけで覚える安心感は変わることがありません。ましてやそれが同じ価値観を持つ人たちであればなおさらです。

 「誕生」の完成から7年がたち、2018年からはEpicのスタジオで制作を続ける日々でしたが、スタジオを訪れる人も少なく思い悩む毎日でした。また子供たちの成長につれて家での父親としての仕事も増え、なかなか作品制作だけに集中するのは難しくなりました。

 いつしかマディソンでの僕は「主夫」兼「アーティスト」と呼ぶのがぴったりな、そういう意味においては輝きを失っていたような気がします。

 しかしこのウィスラーでの制作は自分の本業を思い出させてくれるもので、これ以上ない素晴らしい環境のスタジオを美術館内に設置してもらい、たくさんの鑑賞者の熱気や反応に触れながら作品を描くことができました。アーティストとしての自信を取り戻したその3カ月という期間はEpicでの5年間に比べれば微々たる時間で、ここで描いた部分は全体の中ではわずかかもしれませんが、まさに生き返ったかのようにのびのびと楽しく、そして全精力を注ぎ込んで画面に向かい合うことのできた久しぶりのひと時でした。

 2月からはオハイオ州のクリーブランドに展覧会は巡回します。アメリカで初となるこの個展はここで活動する僕のこれからを決定づけるものになるかもしれず、大変重要な試金石になることは間違いありません。それに向けてこれからやることは山積みですが、その前に来週から10日間スペインに行ってきます。一度パンデミックで流れたタラ号に乗り込み、地中海を1週間航海してくるのです。

 その報告は次号でまた!

(佐賀新聞2023年11月7日号掲載)

【第139便】「個展、閉幕」_b0290617_18441345.jpg
【第139便】「個展、閉幕」_b0290617_18442136.jpg


次回の更新は12月中旬を予定しています。



# by mag-ikeda | 2023-11-17 18:45

【第138便】「ヘリコプターライド」

オデイン美術館が主催する「スペシャルディナーシリーズ」というのは、アーティストやキュレーターなどと一緒に作品の鑑賞をし、その後にテーブルを囲んで食事をするというもので、毎月2回、限定50席の特別なイベントです。地元ウィスラーでプライベートシェフとして活躍する千葉絋司さんがつくる日本料理とのコラボレーションのおかげもあって席は毎回すぐに完売、大人気の企画です。

そこで出会った人が、アーティストに作品のインスピレーションのために空からの景色を見せてあげたいと、自身が所有するヘリコプターに乗せてくれることになりました。

初めての体験当日は、無風で雲ひとつない完璧なヘリコプター日和。

山あいの小さな滑走路に停めてある小さくて真っ青な機体はラジコンのようで、パイロットである彼とその隣に僕、後ろに美術館スタッフの3人が座ればもういっぱいというようなコンパクトさです。おもちゃのような操縦席で二つ三つボタンを押したと思ったら、あっけないほどの軽さで舞い上がり、ぐんぐん景色が小さくなっていく、その手軽なこと!

飛行機に乗るには面倒な手続きを経て滑走路の上で待たされ、長々と走った挙句にようやく飛び上がるというのに、こんなにあっさりと上空にいけるんだということがまずは新鮮な驚き。

次々と眼下を過ぎていく鏡のように美しい山上湖や峰々の連なり、山の岩肌や氷河の景色はどれも息を呑むほどに素晴らしく、これほどまでの絶景が次々と迫り来るという現実に頭がちょっとついていけないほどです。

これまでの僕の常識では山というものは山頂に立つのに朝から45時間歩き続け、長い時には二日ほどかかってようやく絶景に出会えるというものだったのに、わずか数分で、しかもこんなに手軽に!

しばらくクルーズを楽しんだ後は山の頂に設置されてある小さなヘリポートに着陸し、そこにある展望台から下の景色をしばらく眺めました。山々の間を流れる川沿いにウィスラーの街もよく見えます。

彼は不動産で財を成した人らしく、根っからの飛行機好き。ウィスラーでプライベートでヘリを持っている3人のうちの1人で、趣味が講じて購入し、天気のいい朝はコーヒー片手にヘリでここまでやって来て、1人のんびりコーヒータイムを楽しんで帰るんだとか。

自転車や車と同じ感覚で日常的に使っているんでしょう。

このような高価な乗り物だけでなく、体験や時間でさえも、この人はお金で買っているんだな…天上人の生活とはこんなものなのか…などなど、羨ましいとも嫉妬とも違う、なんとも言えないけどどこかロマンのある、ポジティブな感情を抱きながら眼下に広がる街の喧騒を静かな山の上から眺めていました。


再びヘリに乗り込み美術館上空を通って、合計1時間ほどの非日常的な体験を終えて下界に降りてきた我ら。

先ほど2分で飛んだ美術館までの道路は工事中で、帰りは何台もの車に混じってずいぶん並びました。

(佐賀新聞 10月3日号掲載)


【第138便】「ヘリコプターライド」_b0290617_19471137.jpg
【第138便】「ヘリコプターライド」_b0290617_19471232.jpg

次回は11月中旬の更新を予定しています。


# by mag-ikeda | 2023-10-21 19:48