池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

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池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

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第35便「Horse Skiing」

マディソンはバンクーバーと違い山がありません。
あるのはどこまでも続くなだらかな平原とゆるやかな丘ばかり。
今年は雪も多く、湿り気がなくきめの細かいさらさらした雪が誰か滑ってくれと言わんばかりに降り続くのに肝心の場所が…..
スキー狂いの僕にとってはこれほど辛いことはありません。
まさに蛇の生殺しです。


そんな悶々とした日々を知ってか、友人が自宅に招待してくれました。
彼女の家はダウンタウンから車で約1時間。
だだっ広い平原の中にポツンポツンと家が建っているような場所で、周りは見渡す限りの雪野原。
そこにアメリカ人の旦那さんと子供の計4人で住んでいます。
どこまでが自分の庭だかわからないくらいの広い広い土地にニワトリや七面鳥、犬と馬4頭が飼われていて、納屋には秋に仕留めた鹿がそのまま干してあったり
ちょっと大きな冷凍庫には毛皮を売るためのアライグマがたくさん保管してあったりとカルチャーショックの連続!
昔から続くここでの生活の一面を垣間見たようで、改めてここがアメリカ中西部なんだということを実感せずにはいられません。


そんな中、おもむろに4頭の馬の中から1頭を連れてきた旦那さんのアダム。
丁寧にブラッシングしてあげた後、鞍を背中に乗っけます。
僕は間近で見る馬の大きさや息遣いに少々たじろぎながらもその大きな瞳や毛並みに目が釘付け、馬という生き物を観察しながら傍らで手伝います。
と、急にアダムが何か物をとってくるから手綱を持って待っててくれと言うではありませんか!
「え!」
こんなど素人に手綱を持たせて暴れでもしたら!
そんな不安をよそに「優しいから何にもしないよ。」と残しさっさとどっかに行ってしまうアダム。
凍り付いたように固まって手綱を握りしめる僕。
そんな不安をさっそく察知したかのようにブルルと時折大きく首を左右させる馬。


…….賢い馬のこと、こちらの動揺が手に取るように分かるはず!
もしここであのヒヒーン!と後ろ足だけで立ち上がるやつをやられたら!.......


早く!早く来てアダム!


3分が10分にも感じられた頃、その家の7歳の女の子がやってきて「貸して。持っててあげる。」
…….ようやく助かりました。
その子にとっては慣れ親しんだ家族なのでしょう。まるで犬や猫をなでるように上手にあやします。


そして用意も整っていよいよ本日のメインイベント、「馬スキー」の始まりです!
先にハンドルのついた長いロープを持ったアダムが馬に乗り、スキーヤーはそのハンドルを握って引っ張ってもらうのです。
要領は水上スキーと全く同じ。
大喜びの子供達はソリをつけて乗り込みます。
大きなソリに子供が3人、「Go!」の声を合図に走り出す馬。
広い野原をパッカパッカとぐんぐん小さくなっていくソリ。
全力で走ったらソリごと吹き飛ばされてしまうので馬にとってはジョギングくらいなんでしょうが、体感速度はかなりのものだということが帰ってきた子供達の顔で分かります。


そして僕の番。スキーを履いてハンドル持ったらスタートです。
軽快に走り出す第1コーナー。
ドドドッ ドドドッ と響く馬の足音とともに飛び散る雪を浴びながらスキーの感触を味わうというなんとも面白い構図。
第2コーナーを曲がり直線にはいると一気に加速!
ものすごい速力!しっかりハンドルを持って馬の動きを見てないとはじき飛ばされてしまいそう!
さらに地面は時折草や枝が落ちていたり起伏があったりするのでスキーの操作もしなければならず。
遠くで見るより遥かにスリリングで気が抜けません。
そして最終コーナーで膨らみすぎて転ばないよう必死に踏ん張って耐えるとレースは終了。
ここならではの野性味溢れるスキーをしっかり堪能しました。
山は無くとも広い平原と馬がある!
雪とスキーさえあればどこでも滑れるんですね。
そうした飽くなき可能性の探求が遊びの醍醐味とも言えます。


ボートやスノーモービルにはない「馬」という生き物の鼓動をロープから感じながら、
馬上のアダムがさながら戦国時代の武将のように見えました。
となると後ろから追いかけている僕は足軽、いやいや引きずられてるから捕まった落ち武者か?
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by mag-ikeda | 2014-03-29 14:16

第34便「凍った湖」

今年の冬は、過去20年間で最も寒いようです。
こちらに長年住んでる人達も口々に「こんなに寒い冬は初めてだ」と驚いている様子。
新参者の僕らにとって初めての冬がこの歴史的寒さというのはラッキーな気がします。
だって来年以降、もうこれ以上のものはないということですから。


さてそういうわけでマディソンを取り囲むように点在している湖も完全に凍りついています。
これは何も今年に限ったことではなく毎年のマディソンの冬の風物詩のようなものらしいのですが、こんなに大きな湖が全凍結しているのを
見るのが初めての僕らには、自然の巨大な力というか地球の持つ威力というか、そんなものを感じずにはいられません。


いくつかの湖の中でも一番大きなものが美術館からすぐのところにあるメンドータ湖。
夏には学生や地元の人の憩いの場として賑やかです。
夏の間は水泳やヨットなどのマリンスポーツ系のアクティビティも楽しめるこの巨大な湖も、冬の間は寒さのせいもあってか人影もまだらで、
晴れた日などは凍った水面の上に降り積もった真っ白な雪と真っ青な空のコントラストが痛いくらいに強く、またどこまでも続くフラットな水平面は自分が認識できる空間のキャパシティを遥かに越えていて、何か得体の知れない不安感を覚えるくらいです。
景色は見とれてしまうほどに不思議ですが、-10℃以上の気温と吹きっさらしの風のせいでカメラを構えても数分がやっとの僕を尻目に、数人の人達が穴釣りをしたりスケートをしたりして楽しんでいます。


先日少し気温が高かったので仕事帰りに写真を撮りに湖を歩いてみました。
60センチ以上の氷が張っているとはいえ、下は冷たく深い湖です。
恐る恐る歩を進めます。
いつもなら車で大きく迂回して行かなければならない空港も、氷の上を歩けば直線距離ですぐそこ。
遠くから見るのとは違い、湖面は雪と風でボコボコしていてスケートをするにはそれなりに整備しないと滑れないということもわかりました。
何人かが黄昏の中を思い思いの方向に歩いています。
二人話しながら歩く人、一人佇み何事か思う人。ずいぶん沖の方でしょう、豆粒のように小さくなってる人もいます。
静かで障害物もない、どこまでも真っ白な世界は何かを考えるのには最適な場所なのかもしれません。


いくつか写真を撮るうちに日も暮れかかり、急激に気温が下がってきたのでいそいで陸に向かって引き返そうとしていると、さっきまで沖の方でポツンと椅子に座ってたおじさんもこちらにやってきました。
話しかけてみるとなんと一日あそこに座って釣りをしていたとか!
あの吹きさらしの中、氷の上に椅子だけ置いて数時間も!
おじさんの話では氷に大きな穴をあけてノーザンパイクというカマスの仲間(60センチくらいあります)を狙ってたとかで、日も暮れて寒くなってきたから帰るとこだとか。


ていうか昼間からとっくに超寒いんですけど!!


こっちの人の平熱、39℃近くあるんじゃないだろうかと本気でそう思いました。

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by mag-ikeda | 2014-03-22 19:08

第33便「Public Observation」

美術館の地下にある僕の制作スタジオは平日の1時間だけ一般に公開されていて、毎日何人かが見学にやってきます。
人数は日によって違い、5人くらいの時もあれば30人程のグループの日もあります。
見学は火、木曜は午後1時半から、水、金曜は午後2時半からで、Docent(ドーセン)と呼ばれる美術館のガイドの人に連れられてやってきます。


見学中は撮影禁止、制作中の僕に代わりドーセンの人が作品説明や見学者からの質問に答えます。
また作業机の周りにはロープが張られ、みんな静かにそこから見守るという形式になっているので妙な静けさがあって、逆にこっちが緊張してしまうこともしばしば。
僕としてはもう少しフランクに話しかけてくれた方が気まずさもなく英会話の勉強にもなるので有り難いと思う時もあるんですが、みんな気を使ってかとても静かで、ロープの周りから
ヒソヒソ話しながらじっと見られてるとなんだか動物園の動物になったみたいな気になります。


スタジオの隅のテーブルには僕の作品についての記事や画集、それからスケッチなどがいくつか置いてあり、見学者の人はそれらを手に取ったり進行中の絵を見たりしながらだいたい20分くらいで帰っていきます。
が、中には熱心な人もいてずっと僕の横で作業を見ていたり(1時間見てたところでほとんど進まないのでよく見てられるな~と感心しますが…)
数日おきに訪れる人もいて、そういう人に会えるというのはやはりこちらも嬉しいものです。


先日、10歳くらいの女の子が作品の横に立ってずっと制作を見ていました。
あんまりじっと見てるのでこっちもだんだん気になってきて、手元にあったアイデア帳を見せてあげたらこれまた熱心にページをめくっています。
結局その日は時間いっぱいまでいて帰ったのですが、数日後、また来てくれています。
そしてその日も時間終了までいて、最後にお母さんと一緒にもじもじしながら僕のところにやってきて、
「こないだはスケッチブックを見せてくれてありがとう。とっても素敵だった。」という手紙と、自分で折ったという小さな小さな折り鶴をくれました。
お母さんが言うには、「先日も大興奮で帰ってきてずっと作品のことを話してたのよ。」とのこと。


大人ももちろんですが、こうした子供達が僕の絵を大好きになってくれるということほど嬉しいことはありません。
そこには人種も国境も、堅苦しい知識もお世辞もないですから。


描く気がしない時、スランプの時。
その手紙や折り鶴に、これから何度も助けられることは間違いありません。
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by mag-ikeda | 2014-03-12 16:43