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池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

バンクーバー日記


ミヅマアートギャラリー

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【第132便】「夢への繫がり 後編」

唐沢よしこさんと共に、今回の展覧会に欠かせない人物が渡邉きりこさん。

バンクーバーに着いたばかりの頃、よしこさんのお宅でランチをした時に紹介されたのが彼女でした。異国の地で数少ない日本人、それも美術関係の人と出会うというのはかなり珍しいことです。しかも年齢や住んでいる場所が近いこともあって、それ以降は友達として頻繁に会う間柄になりました。

きりこさんは当時バンクーバーの小さな美術館で働いていて、カナダと日本のアート事情の違いをいろいろ教えてくれるだけでなく、アートのイベントを通して僕と地元のアートコミュニティを繋げる手助けをたくさんしてくれました。また「メルトダウン」という作品が完成した時には彼女の美術館で展示をしてくれ、地元の人々に広く紹介してくれました。

きりこさんの家は森の中にある小さな丸太小屋のようなつくりで、特に雨の日に訪れるのが僕らは好きでした。小屋の周りの樹々が雨を優しく受け止め、そこから落ちた水滴はふかふかの土に吸収されるので部屋の中は不思議なほど静かで、そこにいると森全体に包まれているような安心感を覚え、心が静まっていくのを感じるのです。

毎日犬と歩く散歩道では野生動物に出会うことも珍しくなく、シカやクマまで(!)現れるとあって、カナダの自然を肌で感じられるという僕にとっては最高の住環境。こんな場所に住んで毎日絵が描けたら一体どんな絵ができるだろうと何度となく思ったものでした。

そんなきりこさんも僕らがマディソンに引っ越してまもなく、よしこさんご夫妻が建てたオデイン美術館に移り、ウィスラーとマディソンというお互いに新しい土地での生活が始まりましたが、今回僕の個展をするというプロジェクトが始動し、その全てをきりこさんが担当するということになったのです。

展覧会の企画から作品の借用、予算の管理にカタログの作成などなど、個展に向けて必要なことの全てをほとんど彼女一人でやるという仕事はただ絵を描いている僕には想像すらできない激務ですが、僕にとっての初の挑戦をカタチにしてくれるパートナーとしてこんなに嬉しくて心強いことはありません。

バンクーバーにいた2年近くの間に何度も、お互いに将来は何か一緒に仕事ができるといいねと言っていたあの頃の日々を懐かしく思い出しながら、こうして培ってきた関係がいま実を結ぼうとしていることに心の底から幸福感を覚えています。


写真の絵はバンクーバーから引っ越す時にきりこさんに描いた絵。

森の中で散歩をする彼女と犬が描かれています。

(佐賀新聞2023年3月7日掲載)

【第132便】「夢への繫がり 後編」_b0290617_15165537.jpg
【第132便】「夢への繫がり 後編」_b0290617_15192633.jpg


次回の更新は4月中旬を予定しております。



# by mag-ikeda | 2023-03-18 15:11

【第131便】「夢への繋がり 前編」

北米に移り住んでから13年、ついに海外での初個展が実現することになりました!

場所はカナダのウィスラーという街にある「オデイン美術館(Audain Art Museum)」。

北米屈指のスキーリゾートとして有名な場所で、バンクーバーから車で北に1時間半ほどの山の中にあり、世界中から観光客が訪れます。

開催時期は6月下旬から10月初旬にかけての3ヶ月半。

6月から9月までの夏の時期は僕も現地に滞在し、エピックで現在描いている大作を運んで毎日公開制作をする予定です。

ようやく叶った念願の海外での個展。まさに僕にとっての海外でのデビュー戦ともいうべきもので、このために海外に住み続けていると言っても過言ではありません。

しかしながらほとんど無名の外国人アーティストが海外の美術館で個展を実現するというのは生半可なものではなく、実現に至るまでにはある方々との長年の縁と、強力なサポートや働きかけがありました。

今回はその方々の話です。


時は遡って2010年、まだ東京に住んでいたころ。ある日ギャラリーから電話で、バンクーバーから数名のグループが来ることになっているから、来年そこに行く池田くんも一緒に会食をしたらどうかと言われました。そして翌日お会いしたのがバンクーバー美術館のボードメンバーの方々と、その中の一人、唐沢よしこさんという女性でした。

そこで何を話したのかはほとんど覚えていませんが、英語の話せなかった僕にとっては唯一の日本人であるよしこさんはとても話しやすく、「バンクーバーに着いたらとにかく連絡しなさいよ!」と明るく言われたのだけは覚えています。

翌年バンクーバーに引っ越し、言われた通りに電話をしてからは本当に、家族の様にお世話をしてくださいました。手荷物以外ほとんど何もなかった自分達に使っていない家具をたくさん持ってきてくれたり、アート関係者の集まりには必ず呼んでくれて僕のことを紹介してくれたり、海外で生活することのイロハを教えてもらったり、数え始めたらきりがありません。

よしこさんの何事にもポジティブで積極的な性格は僕らにとってはお日さまのようで、人生の経験談も聞いているだけで面白くて説得力があり、海外生活1年目で不安の塊だった僕たちを本当に勇気づけてくださいました。

そしてよしこさんの旦那さんのマイケル・オデイン氏。彼はカナダでも有数のアートコレクターでもあり、そしてどうやらカナダの美術館業界においてかなりの重要な人物らしかったのです。

マイケルさんは心底アートを愛しており、長年かけて集めた個人のコレクションを寄付し、そのコレクションを一般公開する為に美術館をウィスラーに建てました。それが、今度僕の展示が開催されるウィスラーにあるオデイン美術館なのです。

それ以外にもヒグマの保護の為に財団を起こし自然や動物の保護活動なども支援されています。


バンクーバーに僕らが住んでいたのは約2年間と短いものでしたが、お二人にはその後もお世話になり続けていて、佐賀での個展の時もバンクーバーから駆けつけてくださいました。

そんなお二人がどうしても実現したかったことの一つが僕の個展を美術館で開催することで、解決しなければいけない数々のハードルを超えて、今回遂に実現する運びとなったのです。

そしてその個展の責任者として抜擢されたのがオデイン美術館で働く渡邉きりこさんでした。

きりこさんとも10年以上の付き合いですが、それは次回お話しします。

(佐賀新聞2023年2月7日掲載)


【第131便】「夢への繋がり 前編」_b0290617_18154469.jpeg
オデイン美術館外観



次回は3月中旬更新予定です。



# by mag-ikeda | 2023-02-27 18:18

【第130便】「クリーブランド 後編」

美術館を出てミューラーさんのお宅へ着く頃には日も沈み、車窓からはクリスマスのライトアップを終えた家々が過ぎていきます。間違いなく高級住宅地とみえるこの一帯の家はどれも巨大で、一体中ではどんな人たちがどんな生活をしているのだろうと、その美しく演出されたライトの向こうの世界を想像せずにはいられません。

やがて邸宅の入り口と思われる門とおぼしき専用道路が現れ、そこを左折し、木々に囲まれた森を抜け、夕暮れの薄明かりにわずかに照らされた彫刻たちが広大な野原に佇む景色を走ること数分、ここがすでにミューラーさんの敷地内であったことに気づきます。

やがて2つめの門が現れ、そこでインターフォンを押し名前を告げるとゲートが開く。

そこからさらに数分走り、途中の分かれ道を右に曲がったのはいいものの邸宅は全く見えてこない。しかし彫刻群はポツポツと道路脇に現れるのでここが敷地内だということは間違いないのだが…結局途中で折り返し、先ほどの分岐を左に曲がってようやく目的地に辿り着きました。

玄関先の敷地で迷うなんて初めての経験です…


そしてその大豪邸よ…。まるで宮殿のような佇まいに圧倒される僕たち。

対照的に玄関先で迎えてくれたミューラーさんはお世辞にもお金持ちとは思えない、ボサボサな髪にシャツとチノパンでニコニコしているという、どこにでもいるおじさんにしか見えません。横にいる秘書の女性の方がよっぽど…という驚きと同時に、ああ本物ってこういう人なんだなと妙に納得したりして。

20部屋くらいはあるんじゃないかと思われる邸宅の内部はどれも広く天井も高く、それだけでもすごい。そこに大きな絵画やオブジェたちが至る所に鎮座している様子はもう圧巻そのもの。

大きな作品に混じって小さなものも部屋ごとにいくつも配置され、それらも目を見張るような凄い作品ばかり。時計や照明器具もアート作品ならば椅子やソファーももちろんそう。

美術館でしかお目にかかれないようなとんでもない作品たちに隠れて目立たないけれど、足の裏全体から伝わってくる感じたことのないほど上質な感触から、床に敷かれたこのラグも只者ではないことがわかります。

一点数億円するような凄い作品に混じって3歳の娘さんの靴やおもちゃも同じように置いてあったりするもんだから、これもひょっとしておもちゃを模したアート作品じゃないかと思うとうかつに触ることもできません。

こんな凄い空間がその子にとっては普段の景色なんだもんな~。


各部屋のコレクションをミューラーさんの案内で2時間以上かけて見学し、最後に入った書斎で再会した僕の作品2点。小さな作品ですがいつも仕事場に飾ってくれていると思うとそれだけで感激でした。ミューラーさんも僕の作品をぜひクリーブランドの人たちにも知ってほしいので、個展の実現に向けてできる限り協力しますよと心強い言葉をかけてくれました。

残念ながら暗くなったので外の彫刻庭園の見学は次回に持ち越しとなりましたが、次に行く楽しみが増えました。

作品たちの放つ力とそこから受ける刺激の連続で興奮した頭の中で、こんな凄いコレクターさんたちに支えられて僕の仕事が成り立っているのだと思うと、心の底から湧き上がってくる嬉しさと同時に、今すぐにでも描きたいという制作衝動が身体中にみなぎり、このままマディソンに飛んで帰りたいくらいでした。


(佐賀新聞2023年1月10日号掲載)

【第130便】「クリーブランド 後編」_b0290617_12433558.jpeg

次回は2月中旬の更新を予定しております。



# by mag-ikeda | 2023-02-01 12:44

【第129便】「クリーブランド 前編」

マディソンから飛行機で2時間ほどの距離にあるクリーブランドはオハイオ州にあり、五大湖のひとつエリー湖のほとりに位置する人口37万人ほどの都市。そこにギャラリーオーナーの三潴さんとカナダにあるオデイン美術館の渡辺さんとの3人で行ってきました。

訪問の目的は2つ。クリーブランド現代美術館(MOCA)で来年個展をできないかという打診と、タイヤ会社の社長でアートコレクターでもあるスコット・ミューラーさんのお宅を訪問するというものです。

ミューラーさんはクリーブランドの美術館にも多額の寄付をしていて、彼の名前が付けられた展示室があるほどの大物コレクター。僕の作品もいくつかコレクションされているので、彼の後押しがあれば個展の実現も夢ではありません。

実は来年6月から10月までカナダのウィスラーという街にあるオデイン美術館で僕の個展をすることが決まっていて、渡辺さんはそこの学芸員で唯一の日本人。僕がバンクーバーに住んでいた頃からの長い知り合いでその個展の責任者でもあります。

彼女の目的はオデイン美術館の後の巡回展の場所探し。世界各地から作品を集荷して展示するには輸送費だけで数千万というお金がかかることから、巡回展にすることでオデイン美術館以外の美術館たちと協力して運営費をまかなう必要があります。

そのために実際に出向いて行って直接話をすることで、お互いの人となりや展覧会にかける思いをもっと強く伝えることができるし、僕の作品がどういうものでどのくらい面白いかということをもっと具体的に紹介できる。その結果、話が大きく前進するのです。

メールで何でもできる世の中とはいえ、やはり直接顔を向き合わせて話すことに勝るものはありません。メールで数ヶ月かけてやり取りしていてもなかなか色良い返事がもらえず、遅々として進まなかった話が今回の打ち合わせで一気に進み始めたという印象で、まだ決定はしていないものの小さな光が見えたという達成感がありました。


打ち合わせを終えてMOCAを後にし、次に向かうはミューラーさんの大豪邸。

この豪邸だけで1冊の写真集が出版されているほどのものすごいお宅で、40万平米という、ゴルフ場が全部入るほどの広大な敷地の中に世界中の有名アーティストの彫刻コレクションがちりばめられ、宮殿のような家の中にはこれまた数えきれないほどの絵画や彫刻の数々があるという…。

これがアメリカの大富豪か…

タイヤという、車大国のアメリカで絶対になくてはならない必需品で財を築いた彼のサクセスストーリーと、そこで待つであろうコレクションの数々に期待で胸を膨らませた僕たちを乗せた車は一路ミューラー邸へと向かったのでした。(つづく)

(佐賀新聞2022年12月6日号掲載)
【第129便】「クリーブランド 前編」_b0290617_19012778.jpg
次回は2023年1月中旬更新予定です。


# by mag-ikeda | 2022-12-21 14:50

【第128便】「羅針盤」

これでいいのだろうか、この方向で間違いないのだろうか… 漠然とした不安や疑念と隣り合わせの状況で2年近く、この大作を描いています。

先の見えない大海原を一隻の小舟だけで進んでいるような心許ない感覚は、これまでの作品制作では味わったことのなかったもので、ペン先からつながる線にもそうした迷いや葛藤が現れているような気がしていました。



そんな中、僕が所属するミヅマアートギャラリーのオーナー、三潴さんが日本から作品の進行状況を見にマディソンに来てくれました。

前回の訪問はまさにこの作品に着手した2019年。記念すべき一筆目を三潴さんの眼の前で入れたのを覚えています。

それから約3年、途中パンデミックなどで中断もありましたが、そのような不安の只中で制作してきた作品が三潴さんの眼にはどう映るのか、それを考えると再会の喜び以上に心が重くなるようでした。

いつもは開口一番、作品のことを聞いてくる三潴さんが空港からエピックまでの車内でもそのことに触れなかったのは、あるいは僕がこの作品で悩んでいるというのを知っていらしたからかもしれません。

しかしスタジオに入り壁にかけられた作品を見た第一声は僕の予想に反したものでした。これまでも何度も他の作品の生まれる過程を見てもらってはいるけれど、今回のように「これは凄いじゃない!」と言われたことはなかったからです。


子供達の成長と共に作品に向き合える時間も減り、自身の体力の衰えをひしひしと感じる中で作品に向き合ってきました。またエピックのスタジオに訪れる見学者は少なく、彼らから制作のモチベーションや刺激をもらうこともほとんどなく、孤独を感じながらの制作は絵に対する情熱までも失わせてしまうようでした。

ましてや今回の作品はこれまでに取り組んだことのない新しいもの。自身の中でいつの間にか垢のようにこびりついてしまった思い込みや変なこだわりなども苦しく、だからこそ第三者の客観的な意見が僕には必要でした。日本にいればギャラリーや展覧会に行き、三潴さんや作家仲間から刺激をもらい、それを制作のエネルギーに変えることができるかもしれないのにと、普段は考えもしないことを最近よく思うようになったのは、それだけ追い詰められているからかもしれません。

しかし三潴さんはこの作品を新しい挑戦として理解してくれました。その上で、人からどう言われようと気にすることはない、君は別の次元に行こうとしているのだからこれまでの評価に縛られず自信を持ってやればいいよ、と背中を押してくれました。

僕はそのことだけで救われたような気がしました。


三潴さんの言葉の数々は迷っていた霧を振り払い、作品の目指す方向性は間違っていないんだということをはっきりと指し示してくれました。まるで羅針盤のように。

3年前に作品の船出を見送ってくれ、今はこうして勇気づけてくれる三潴さんの存在に励まされて、また前に進んでいけそうな気がします。

(佐賀新聞11月掲載)

【第128便】「羅針盤」_b0290617_11273603.jpg


次回は12月中旬に更新予定です。


# by mag-ikeda | 2022-11-26 11:27