池田学 マディソン滞在制作日記
by mag-ikeda
池田学 / IKEDA Manabu
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。
バンクーバー日記

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【第155便】「不安」
みなさんには常に頭から離れない不安はありますか?僕にはあります。それは今を遡ること14年前、バンクーバーに住み始めて間もなくの頃でした。長女を保育園まで送り、そのまま室内でみんなと遊んでいる様子を見つめている時、突然子供たちの上半身と下半身がズレ始め、たくさんの上下に分割された子供たちの体が視界の中を走り回っているのです!まるでこなごなに割れた鏡越しの世界のように。
しばらくしてギザギザと光るモザイク模様が視界に広がり始め、やがて頭が痛くなり始めた時には脳の血管が切れたに違いないとパニックになり、急いで救急外来に駆け込んで調べてもらった結果、偏頭痛の典型的症状ということでした。偏頭痛になる人の半分くらいにそのような前駆症状が現れるというらしいのです。幸運にも予想したような深刻な病気ではなかったのですが、その時に感じた非常に強い恐怖感が現在に至るまで続くトラウマとなってしまったのです。
それ以来、ほぼ1年に1回の割合で偏頭痛に襲われるようになりました。そのたびにもれなく閃輝暗点(せんきあんてん)というその症状が現れます。ある時は突然話している相手の顔の左側がズレ始めたり、またある時は車の運転中に視界の半分が見えなくなったり… いつどこで、どんなタイミングでやってくるかが分からない恐怖。
やがてギザギザが現れ、15分後にそれが消えた後は計ったように頭痛がやってくるのですが、僕には頭痛そのものよりも、いつ突然襲ってくるか分からないその視界の変化がたまらなく怖い。
もともと小さなものをずっと見つめて観察したり、絵においても細かい部分を見つめ続けるというような、「見る」という行為、いわば視覚にかなりの部分頼って生きている自分にとって、一時的にせよそこに異常をきたすということの恐ろしさは言葉にできません。
朝起きた瞬間から夜ベッドに入るまで常に頭から離れない不安。
視界のわずかな変化にも動揺し、心拍数が上がり、心の中で「これはそれじゃない。大丈夫大丈夫。」と唱える日々。美しい景色や子供の顔など、もっと見続けたいと思った瞬間に脳のトラウマセンサーが働くのか、最近では、じっと見つめるということ自体を避けるようになってきてしまいました。
調べたところによると、中には毎週、毎月偏頭痛に苦しんでいる人もいて、それに比べると僕なんか1年に1度だけ、あとの364日は何も起こらないのだからそのくらい大した事はない!というのは分かります。もっと深刻な病気で苦しんでいる人もたくさんいらっしゃる。でも…。
まさに昨日、その1日が来てしまったこともあって、なかなか楽観的な気持ちにはなれずにいます。
(佐賀新聞 2025年4月1日掲載)

次回は5月中旬の更新予定です。
【第154便】「ドア問題」
スタジオの環境に変化が訪れました。
以前ゲーム会社として使っていたこの建物にはオフィスとして使われていた約20室ほどの小部屋があり、そこはずっと空き部屋になっていました。僕が使っているスペースはそれらの部屋よりもかなり広くて天井も高く、廊下を隔てて少し離れた場所にあり、そこに1人で夏からいたわけですが、それまで僕以外に人っ子一人いなかった建物が最近にわかに賑やかになってきました。
不動産屋さんと思われる女性が毎日のように内見としてここに人を連れてくるようになったのです。僕としても誰もいない建物内で孤独でいるより少しくらい人がいたほうが嬉しいのですが、いったいどんな会社が入ってくるんだろう、会社によっては騒がしくなって制作に影響が出るのは困るな…などと内心ちょっと不安を感じてもいました。
ある日のこと。いつものように廊下を歩いていると小部屋のいくつかが開いていて、人がいるではありませんか。話しかけてみたらなんとみんなアーティスト!
そうなんです。ここのオーナーが、これらの小部屋をアーティスト達のスタジオとして提供することに決めたらしいのです。それ以降、続々と部屋の持ち主が決まり、入口のドアにはアーティストの名前や紹介文などが貼られ、窓からは彼らの作品や制作風景が見れるようになりました。僕としてはまさに理想的な環境!同じアーティスト同士、作品を見せ合ったり情報を交換したり、お互いに刺激がもらえそう!てっきりどこかの会社が入ってくるとばかり思っていたので、オーナーの英断に心の中で拍手を送りました。
ところが一つ問題が。僕以外の人が建物内を使い始めたことにより、これまでいらなかったスタジオのドアが急遽必要になったのです。扉のある小部屋とは違い、僕のスタジオはオープンスペース。
誰でもいつでも入って来れてしまいます。実際、制作中にも内見の人達が入ってくるので集中を乱されたり、作品に触ったりしないかと気が気でない時もありました。特に休日や夜間など、僕が不在の時のセキュリティ対策は緊急の最重要課題です。
とにかくオーナーには何度もドアの設置をお願いしつつ、その間セキュリティカメラを購入し、スタジオ入口にチェーンを張って「防犯カメラ作動中!」というサインをすることでできるだけの対策はしましたが、それでも不安は拭えず…。オーナーとしても扉を設置するにはまずそこに壁を作る工事の必要があり、なかなか快諾はしてくれません。
なんせタダ同然で使ってる僕の要求をお金をかけてまで叶える義理はないので…
結果的に僕の願いが通じたのか、程なくして壁と扉は設置され、最大の問題は解決しました。
彼の心境にどんな変化があったのかは分かりませんが、この決断に、とにかく感謝しかありません。
(佐賀新聞 2025年3月4日号掲載)

次回の更新は4月中旬を予定しています。
【第153便】「ゴミ問題」
今年のマディソンは例年になく雪が降らず、暖かな(といっても平均気温はマイナス10度前後ですが)冬となっています。ここの降雪量は新潟や北海道などと比べても多い方ではないですが、低温のため一度降った雪が溶けずにそのまま残っているので、日を追うごとに少しづつ雪がストックされて結果的にはいつも雪景色といったかんじで、雪遊びやスキーが好きな僕達にとってはなくてはならないものだったのが、この雪の少なさで冬枯れの木立ばかりが目立ち、逆に冷え冷えとした印象を与えています。
雪がないのでスキーやソリもできず、といって外に出ても寒いだけという、なんとも焦ったい日々が続いていて、これも温暖化の影響なのかと心配にならずにはいられません。
温暖化に加えて、もう一つ気になるのがゴミについて。
全米というわけではないと思いますが、マディソンでは引っ越しをする際にいらなくなった家財道具をそのまま道路脇に山積みに残していくという文化?なのか、引っ越しシーズンには近所の至る所で放置されたベッドやソファ、テレビにテーブルなどの大型家具がそのまま雨ざらしになっています。それらの中には当然まだ使えるものもあって、欲しい人は勝手に持って行っていいというシステムなのでその中の幾つかは減るものの、それでも大量に残された残骸は景観的にも悪く、そしてなにより勿体無い。まだ十分使えるのに…とその都度やり場のない気持ちになります。
そもそも引っ越しのたびにこれだけの量の物を捨てるということは、新居でもまた同じくらいの家財道具を買うということで、モノに対する意識が我々とは違うのかもしれません。例えば誕生日やクリスマスなどを例に挙げてもこちらではまさに山のような量のプレゼントを買いますし、バーゲンやセールのたびに古い物を捨てて新しい物を買ったりと、これまで見聞きしてきた消費についての驚きエピソードを挙げ始めたら枚挙にいとまがありません。
まさに消費社会アメリカを体感しているわけですが、それら大量の物欲が行き着く先が郊外にあるゴミの埋立地。地面に掘られた巨大な穴に、大型家電も家庭ゴミも生ゴミも一緒くたに埋めてしまうのだそうです。
食事にしてもモノにしても全てが大量。消費しきれなかったそれらは視界の外にボンボン捨ててはどんどん買い足す。
その尻拭いを自然に押し付けて、見なかったことにする。
この広大な国土のおかげで今はまだ目を逸らしていられますが、その報いを受ける日は必ずやって来ます。
(佐賀新聞2025年2月4日号掲載)

次回の更新は3月中旬を予定しています。
【第152便】「乱射事件」
マディソンは全米でもとても治安がよく、住みたい街のナンバーワンに選ばれた事もあるほどのどかで過ごしやすいと言われてきましたが、ついにここでも起こってしまいました。学校での銃の乱射事件。現場となった学校は僕たちの住んでいるエリアから30分ほど東にある、小学生から高校生までが通う一貫校で、10代の生徒と教師の2人が亡くなり、複数人が負傷しました。また、犯人の生徒もその場で自ら命を絶ったということでした。
自分の子供が通う学校ではなかったとはいえ、アメリカに住んでいる以上、いつ犠牲者の一人になってもおかしくないという恐怖、自分達の努力や対策では防げないというどうしようもない無力感、そしていつか起こるかもと思いながらも「平和な」マディソンに限ってそれはないと、心に蓋をしてやり過ごしていたものがついに現実になってしまったという失望感。
これまでの漠然とした不安が一気に現実として自分達の日常にのしかかってきた衝撃に、身が凍りつきそうな思いでした。
さらに犯人の生徒が長女と同じ15歳の女の子だったというのも、僕たちの受けたショックに更なる追い討ちをかけた要因の一つでした。
その子がどんな経緯でこのような事件を起こすに至ったのかは分かりませんが、本来まだ子供で非力なはずの女の子でさえこのように簡単に、あっという間に人の命を奪ってしまうのかと、改めて銃社会で暮らすことの恐ろしさを感じずにはいられません。
子供達の通う学校からはこの事件を受けてすぐに、今後セキュリティに対してより一層の努力を図るとか、子供達の安全が我が校の最も重要な事案だというメールが保護者に向けて届きましたが、空港のように入り口で手荷物検査ができるわけでもなく、果たしてどのくらい意味があるのかと疑わざるを得ません。
悲しいことに子供たちは定期的に学校で、日本でいう火災避難訓練のように校内で乱射が起きた場合に備えて避難訓練をしています。
銃撃犯が入ってきた場合、ドアを中からロックして部屋の隅に集まり、静かにジッとしていようなどなど。しかし高校生の長女はそうした訓練がいかに形式的なものかということを経験から感じていて、どれだけ対策を講じようと結局は発砲が始まってしまったらどうしようもないという諦めの心境にも達しているようでした。
【第151便】 「ツリー農園」
例年に比べてとても暖かかった秋も11月半ばを過ぎるといそいそと温度を下げ始め、湖の水も冷えてそれまで岸辺で元気に餌を追い回していた魚たちも冬眠のために沖の深いところへ移動していったようです。ディアハンティングも始まり、鹿を求めて森の中へハンターたちが集まりだしました。
ハロウィンの飾り付けをしまい、落ち葉を掃き、サンクスギビングという秋最後の連休が終わるとあとは坂道を転がるようにどんどん寒くなり、やがて長い冬がやってきます。
冬といえばクリスマス!ということで子どもたちが楽しみにしているのがツリーカッティング。文字通り部屋に飾るためのクリスマスツリーを切りに行くわけですが、郊外にいくつかあるツリーファームと呼ばれる農園は、この時期にはたくさんの家族連れで賑わいます。そこにはいろんな種類のもみの木が植えられていて、それぞれに葉の形や香り、色味などが違います。サイズも大きいものから小さいものまで。それぞれの家のサイズや好みによって自分達でこれぞという1本を見つけ、ノコギリで切り倒すのがいかにもアメリカという気がして、ここでしか味わえないこのイベントが僕らは大好きです。
子供たちはそれぞれ農園の中に散っていってはワイワイと木の選定をしているようですが、一見同じような木でもよく見ると枝ぶりや全体の形が微妙に違っていておもしろく、これを部屋に置いて飾りをつけたらどのように見えるか…と想像する力も必要で、想像するほど簡単な作業でもありません。
どうしても見栄えのする大きいものを選んでしまいがちですが、外ではちょっと大きいかな、くらいに見えたのが家の中に置くと大きすぎて部屋のスペースを占領し、どうにも困ったという失敗も過去にはありました。
切ったもみの木は農園のスタッフが上手に紐で巻いて車の屋根にくくりつけてくれるので、それを家まで運んだらあとはほどいて立てるだけ。
ライトを巻いてオーナメントを飾り付ければクリスマスツリーの完成です。
広大な自然に囲まれたマディソンならではの冬の風物詩という感があるこのツリーカッティングですが、もちろんプラスチックで作られたイミテーションも広く売られていて、果たしてどちらがいいのだろう…と考える事もままあります。それ用に育てられているとはいえ毎年自然の木を伐採するのと、何年も使えるプラスチック製品を利用する事と、環境にとってはどれが正解か。
皆さんはどう思いますか?
(佐賀新聞2024年12月3日号掲載)
