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池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

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【第160便】「火」
at 2025-12-06 18:30
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【第160便】「火」

今年は温暖化の影響なのか、例年なら8月末には涼しくなってくるマディソンも9月終盤まで夏日のような高温が続き、畑の野菜たちも枯れずに実をつけ続け、我が家の食卓をかなり助けてくれました。特に今回初めて挑戦してみたマスクメロンの美味しさには全員が驚き、夏の間の整枝や摘果などの大変な作業も一気に報われた思いがしました。

しかし10月になると遅れを取り戻すかのように一気に気温は急低下、街中の街路樹も面食らったように慌てて冬支度をし始め、みるみるうちに赤や黄色に色づき始めました。朝晩の気温が1桁代になると活躍を始めるのが暖炉で、薪を補充するのもこの頃です。マディソンではガソリンスタンドやスーパーなどでも気軽に手に入りますが、僕らが注文するのはいつも近所のボーイスカウトから。お店で買うよりもずっと安く、しかもひと冬分、もしくはふた冬分でも十分な程の薪をドッサリ家まで届けてくれるのです。

注文する時に配達してほしい分量、そして種類を選びますが、オークと呼ばれる硬い樫

の木は火が長持ちし、長時間かけて部屋をジンワリ暖めてくれます。またバーチと呼ばれる白樺は火のつきがよく、着火時のスターターとしてはもってこい。うちはいつもこの二つをブレンドして注文しています。

配達当日は玄関前のスペースを空けて配達作業がし易いようにするのが礼儀。やがて大量の薪を積んだトレーラーの後ろから数台の車に分乗して10人ほどの男の子たちがワラワラとやってきたかと思うと、テキパキと薪を抱え出し、指定された場所に運び始めました。今年はサービスなのかルールが変わったのか、これまで玄関先に山積みするだけで帰っていたのが、丁寧にも薪の保存場所にちゃんと積むところまでやってくれたのでとても助かりました。

佐賀や東京で暮らしていた自分には全く縁がなかったのもあって、この暖炉文化はアメリカ生活で最も好きな習慣の一つです。暖炉の前でパチパチと燃える火を見ながら飲むコーヒーの美味しさ。静かで豊かな時間。

またエアコンと違って頭がボウっとするわけでもなく遠赤外線効果?で体の芯からポカポカとしてくるので全身が温まる。

火を見つめると、遺伝子に組み込まれている人間本来の記憶が呼び覚まされ、それゆえに不思議なほどそのゆらめきに惹き込まれるのだという話を聞いたことがありますが、確かに暖炉の炎を見つめていると体の中が浄化されていくような、心の中の波立つような雑念が落ち着いてくるように感じるのはそのせいかもしれません。

100万年以上前、どこかでこうして火を眺めていた誰かの気持ちに思いを馳せながら、今日も暖炉に火を灯します。

(2025年11月4日号掲載)

【第160便】「火」_b0290617_18294492.jpg


次回は12月中旬の更新を予定しています。


# by mag-ikeda | 2025-12-06 18:30

【第159便】「迷い」

2019年から描き続けている海をテーマとした新作。サイズは縦3メートル、横6メートルと自己最大のものです。

6枚のパネルから成るこの大作もだいぶ全体像が見えてきました。登山でいうなら7合目あたりといったところでしょうか。

この作品にはあえてこれまでのような人間や建物、または隠された仕掛けやユーモアなどの要素は入れず、ただただ波や雲などの表情だけを描いていて、これは自分がこれまで生み出してきた作品スタイルから一旦離れて、新しい作品世界と出会うための挑戦でもあります。

しかしながらこの数年間、そのことだけを念頭に入れて制作してきたものの、その信念が揺らぐことも多くなってきました。時々スタジオに見学に来る人たちの反応も以前とは違い、作品をずっと食い入るように見つめるというよりは「写真かと思った」という感想が表すように、どこか距離感があるように感じられて仕方がないのです。

これまでの宝探しのような、絵の中にいろんなものが描かれている絵ではないので当然の反応と言われたらそうなのかもしれませんが、「写真のよう」という言葉は僕にとっては必ずしも褒め言葉ではなく、どちらかというとただそっくりに描かれているだけの、想像力を掻き立てたり感情を揺さぶられるなど、いい絵が持つ魅力に乏しいからこそ出てくる言葉なのではないか…と訝しんでしまうのです。

ひょっとしたら僕はこの数年間、大きな思い違いに気づかないままただ盲目的にペンを走らせていたのかもしれない。多種多様なアイデア同士がカオスのように混在し合う不思議な世界が僕の絵の面白さだとしたら、今の絵はただ波の表情を細かくペンで再現しただけの風景画かもしれず、鑑賞者の目に残るのはこんな大きな絵をこんな細いペンで描いたんだという本来の意図とは異なる技術的な印象だけかもしれない。

海の持つダイナミックなうねりや圧倒的なエネルギーを表現してみたい。それがこの作品のコンセプトだったはずで、それが知らず知らずのうちにバランスをとったり全体的にまとめようとする過程で薄まり、なんとなく整えられたような印象になってきているのだとしたら…と常に不安が頭をよぎります。

ともあれここまで来たからにはこのまま突き進むしかないのも現実。大きく方向転換できる段階はとうに過ぎていますし、そもそもこれまでとは違う作品なのだから違和感がないほうがおかしい。

この先に新しい可能性が広がっているのか、はたまた迷い込んで失敗に終わるのか。

迷いと奮起が交錯しながらも信じて描き続けるしかない、と自分に言い聞かせながら作品に向かう日々です。

(佐賀新聞 2025年10月7日掲載)



次回は11月中旬の更新を予定しています。


# by mag-ikeda | 2025-10-24 19:24

【第158便】「引っ越し」

といっても我が家ではなくスタジオのことです。

去年から使っていた広いスペースはラウンドハウススタジオの設立に伴いアーティストが増えてきたことで、このスペースを使いたいという団体からの要望もあって立ち退かざるを得なくなってしまいました。

もともと誰も使っていなかったこのスペースを借りる時に、使用期間については「オーナーが立ち退いてくれと言うまで」だったこともあり、もしもそう言われてしまったら従うほかありません。

また僕のスペースは建物の区画上、メインの広い作業部屋の他に使っていない2部屋を含む、いわばワンルームの中に3部屋もあるような特別な物件で、大きめのスペースを探していたアート系の団体にとってはまさに打ってつけの場所だったのでしょう、僕の5倍以上の家賃を出すからと言われたオーナーが首を縦に振らない理由がありません。

そんなわけで突然突きつけられた退室勧告だったのですが親切な彼の提案で、同じ建物内の別の部屋を紹介してもらいました。ここはもともと会議室として使われていた場所で空間的には約半分ほどの大きさ。天井もギリギリ大作が掛けられる高さで自然光の入る窓もなく、狭くて薄暗い印象。これまでの快適で明るいスタジオが気に入ってた僕には絶望感に近い心境でしたが今からスタジオを探すことの労力と時間を思えばここは呑むしかありません。泣く泣く了承し、失意のなか引っ越しの準備を始めたのでした。

さて新しいそのスタジオ、天井の高さはギリギリ大丈夫でも、壁の長さは大作を掛けるには短く、二つのドアのうち一つを塞がなくてはなりません。

これを自分でやるのかと途方に暮れていましたがオーナーの計らいで大工さん数人を使ってわずか1日でスタジオ仕様に仕上げてくれました。また天井のライトも全て新品に交換してくれ、最初の薄暗かった部屋はかなり明るく生まれ変わりました。

引っ越し当日も他のスタジオのアーティストたち数人が作品を運ぶのを手伝ってくれて、終わってみればコンパクトでなかなか居心地のいい部屋かも…自然光は入ってこないけど作品の保護にはその方がいいし、背面の一面のガラス張りの壁からは1階のエントランスロビーに置いてある本物の列車が見えてインスピレーションももらえるし、隣部屋のアーティストたちとの交流も増えるし…と、なんだかいいこと尽くめのような気がしてきました!

契約が切れたらハイそれまでというオーナーもいる中、最初からいるアーティストだからといろいろ考慮してくれた彼の心配りにとても感謝しています。

(佐賀新聞2025年7月1日号掲載)


*写真の左側が古い列車が置かれたエントランス、窓越しの右側が新しいスタジオ

【第158便】「引っ越し」_b0290617_10495439.jpeg
次回は8月中旬の更新を予定しています。


# by mag-ikeda | 2025-07-18 10:53

【第157便】「ラウンドハウススタジオ」

今回は去年の夏から使っているスタジオについての話。

誰もいない大きな建物の2階の一室で半年近く孤独に制作していたのが、冬あたりからにわかに人が増え始めたなと思ってるうちにあれよあれよと空き部屋が埋まり、気づいたらアーティストの集まるコミュニティになっていたというのは以前に書いたと思いますが、今日はそのオープニングレセプションが行われました。

地元のアーティスト達の活動を支援したり、ギャラリースペースとして作品の展示や販売のサポートをする「Art + Literature Laboratory」略してALLという団体が主体となってこの建物にアーティストを誘致し、「ラウンドハウススタジオ」として始動を始めました。そのお披露目ということでアーティスト達のスタジオを一般に開放し、地元の人々に認知してもらうというのがこのイベントの目的。

僕はその団体とは無関係ながら、ラウンドハウススタジオを使用する一員として参加させてもらいました。


スタジオは全部で20部屋近くあって、そのほとんどが畳8畳分くらいの小部屋。

アーティストといっても学生さんだったり、趣味で作品を作ってる人などメンバーは様々。

平日の日中は働いてるからなのか、僕がいる時間はほとんど人気がなくスタジオも閉まっているので彼らの作品を見る機会はこれまでほとんどなかったのですが、今回のイベントで初めて中を覗かせてもらいました。

作品は油絵あり手芸あり、版画やコンピューターなどジャンルもいろいろで、それぞれがそのスペースを自分の制作空間に仕立て上げ、そこで作品やポストカード、グッズなどを販売したりしています。ソファーやコーヒーテーブルなども設置されてて、それぞれがいつの間にか快適な部屋を作り上げているのには驚きました。

僕のスタジオにもたくさんの人が来てくれて、制作中の大作を眺めたり壁にかけてある版画やプリントを楽しんでいるようでしたが、僕が嬉しかったのが、結構な数の人たちがチェイゼン美術館で「誕生」を描いていた頃にスタジオ見学をしたことがあってそれを覚えておいてくれた事。アートが好きな人達ということもあってその時の思い出や、美術館に常設されている「メルトダウン」という作品についての話に花が咲きました。

思えばあれから10年近くの月日が流れていることを思うと、いまでもここで作品を作り続けていられること、そして地元の人たちの中に「誕生」の記憶が生き続けていることの幸福に感謝せずにはいられません。

そしていつかまた「誕生」をマディソンで展示したい!という思いを新たにしました。

(佐賀新聞2025年6月3日号掲載)

【第157便】「ラウンドハウススタジオ」_b0290617_19255486.jpeg

次回は7月中旬の更新を予定しています。




# by mag-ikeda | 2025-06-20 19:26

【156便】「暗雲低迷」

アメリカでは、不法移民政策によって、外国人である我々もこれまでとは違い、日本の領事館から万が一に備えてパスポートを持ち歩くようにと言われるようになりました。とはいえ命の次に大事なパスポートを常時持ち歩くというのはかなり不安もあり、もし盗難されたり無くしてしまったらと考えると気が気ではありません。それ以外にもビザの発給に対する審査が厳しくなり、我々が申請しているアメリカ永住権、いわゆるグリーンカードの発給が大幅に遅れることも予想に難くなく、それも私たちの気持ちを重くしていることのひとつです。そもそも子供たちの大学進学も考えての決断だったのが、その大学自体にまで影響が及んでいる今となっては、ここにいることのメリットさえ怪しくなってきました。  

いろいろな問題を抱えていながらも、やはり表現や言論の自由があり、文化や民族の多様性を認め、世界中から優秀な才能が集まる大学を持ち、無数の可能性の扉が開かれているアメリカの良さ自体を否定し始めたようにも見える現在の状況に、本当に暗澹たる思いでいっぱいです。

しかし日常の中には明るい陽射しが差す時ももちろんあって、それは5歳の息子が通う幼稚園でのあるイベントの一コマ。幼稚園と地元のファーストフード店が協力して、幼稚園の先生たちが園が終わった4時以降、1日署長ならぬ1日スタッフとして働くのです。その日の売り上げの何割かが幼稚園に寄付されて、それが学校の資金となって運営に生かされていくわけですが、大好きな先生たちが店内で注文を受けたり掃除をしたり、品物を持ってきてくれるとあって、お店はたくさんの園児たちで大賑わい!さっきまで学校で会ってた先生たちが今はお店の店員さんだなんて、子どもたちからみたらどんなにワクワクして嬉しいだろう!

先生たちも父兄さんもそれを本当に楽しんでやってるところがとってもよくて、こういう人生を楽しむというか、明るく過ごしていく文化がアメリカのいいところだなといつも思います。

なるべく毎日をこうして楽しみながら、世界の現状が良くなっていくことを願うばかりです。

【156便】「暗雲低迷」_b0290617_20024769.jpeg

次回は2025年6月中旬の更新を予定しております。



# by mag-ikeda | 2025-05-29 13:05