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池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

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【第115便】「専業主夫」

アメリカに来て驚いたことの一つはなんといっても男性の家事への積極的な関わりでしょう。学校の送り迎えはもちろんのこと、夕方の公園でもたくさんのお父さんが子供と遊んでいますし、休日に食事に誘われて家を訪問すると、奥さんが僕らをもてなしてくれている後ろで旦那さんがキッチンに立って料理をしたり後片付けをしたりして立ち回っているのも、珍しいことではありません。

もともと3人兄弟の男所帯で育った僕にとって、家事は母と祖母がするものでした。

父を含む僕ら男4人がそれを手伝った記憶はほとんどありません。

そんな男性中心の環境で生きてきた母がアメリカに来た時に、台所で妻を手伝う僕を見て「男なのに台所に立たされてかわいそう。」と言ったのですが、それも無理はないかもと思えるほど、実家とここでは価値観が違うのです。


もともと家事や育児に参加していた僕にとって、アメリカでのそうした生活スタイルは肌に合うものでしたが、今回その本当の大変さを思い知らされる事態が起きてしまいました。

7月に妻が体調を崩して動けなくなってしまったのです。

病院でいろいろな検査をしてもらった結果、幸い目立った異常は見つからず、おそらく精神的なストレスやプレッシャーなどからくる疲れによるもので、とにかく休養が必要だとの診断。

思えばここにきて10年、慣れない外国暮らしに加え3人の出産、4人の子育てと家事全般をほとんど一人できりもりし、頼る親類のいないアメリカでほぼ孤立無援に近い状態で奮闘してきた結果に違いありません。今にして思うとチェイゼン美術館で三年以上の間、「誕生」の制作だけに向き合うことができたのも、僕が作品だけに打ち込めるように妻がそれ以外の負担を一手に引き受けてくれたからでした。

そうした長年の蓄積による疲労が相当溜まってきていたはずで、そこに去年のパンデミックが追い討ちをかけました。なにしろまるまる一年、子供達は学校に行けず、一日中家にいたのですから。


さて妻に代わって家事全般を引き受けることになった僕は改めてその壮絶さを知ることになります。

毎朝6時に2歳の長男に起こされるところから始まり、朝食の準備に片付け、掃除や洗濯。

それが終わったと思ったらもう昼ごはんの準備です。長男の昼寝に合わせて30分の仮眠をとり、午後には上の子たちの習い事への送り迎えや雑用を済ませているとあっという間に今度は晩ごはんの準備。そして子供達が寝るまでの慌ただしい時間が過ぎると、そこでようやく自分の時間でメールの返信や作品に向かえますが…もう余力は残っていません…。

数時間後にやってくる長男の目覚ましに備えて早めに寝ることのみ。

そしてこのルーティーンが週末だろうが祝日だろうが休みなく、エンドレスに繰り返されるのです。

この2ヶ月間の専業主夫生活で作品に向きあえた時間はほんのわずかでした。

しかし今はそういう時なのでしょう。

夜は夜泣きでたびたび起こされ、日中もひっきりなしに子供達から呼ばれ、ケンカの仲裁をし、片付けるそばからちらかされ、やったからといって誰からもほめてもらえず、給料も出ず、社会的な地位があるわけでもない…

これほどまでに自分を犠牲にしながら、世の中の主婦たちは家庭を支えていたとは。

今までの僕は家事に参加はしていたけれど当事者ではなかったのだと思い知らされました。

そして毎日絵を描けることは当たり前のことではないのだと。家族の健康や犠牲の上に成り立っているのだということを肝に銘じました。

9月に学校が始まりだいぶ楽になってきましたが、妻にしっかりと休んでもらうためにも、まだしばらくこの生活は続きそうです。
(佐賀新聞2021年10月掲載)
【第115便】「専業主夫」_b0290617_11494907.jpg

 
次回は12月11日(土)更新予定です。


by mag-ikeda | 2021-12-04 11:52