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池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

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【第118便】「ここにいる意味」

きっかけは東京の友達からのLINEメッセージでした。

グループ3人でレストランで食事をしたり、コーヒーを飲みながらおしゃべりしたよといった会話とその時の写真。

しかしそれらの写真で僕らの精神状態は一転してしまったのです。

こまめに美容室に行きよく手入れされた髪。おしゃれで新しい服。上品に盛り付けられた料理を笑顔で楽しむ姿。明るく静かな店内で彼女らを包むゆったりとした時間。

それらのどれ一つとして現在の僕らにはありません。

ワクチンが普及されたとはいえ、いまだ必要なものの買い出し以外、外出はなるべく控え、もう何度目かの感染拡大に備え息を潜めるようにして暮らしている自分たちの目には、それら東京の日常があまりにも眩しく、その現実の違いに打ちのめされてしまいました。

パンデミックで生活に制限を強いられても、それは世界中がみな同じだからと言い聞かせて我慢している自分たちと同じ時間に、日本の友人たちはこんなにも日常を謳歌していたとは。

張り詰めていた糸がぷつりと切れたに等しい瞬間でした。


外国で暮らすというと、自由で刺激的でうらやましい…などと言われることもありますが、それはこちらが元気な場合のみの話。一度心が折れるとまさに坂道を転がり落ちるように全てのことが辛く、不安になります。

妻が体調を崩して以降エピックにもなかなか行けなくなり、家で制作をすることが多くなったことで、ますます外部との接触が無くなりました。日本に比べて生活費や医療費も2~3倍高いアメリカ。子供たちの学校から届く学級通信を読むのも、保険や銀行の手続きをするのも英語ゆえ数倍時間がかかります。アメリカの会社から収入を得ているならともかく、ただ家で作品を描いているだけなら日本にいたって同じです。わざわざ3倍近いお金と時間を費やしてここにいる意味って何なんだろう…?  

なにも好き好んでこんな大変なところにいなくても、日本に帰ればもっとずっと楽でお金もかからず暮らせる気がする… 高齢になりつつある両親や兄弟たちをほっといてまでここで暮らす理由は本当にあるのか。

一度考え始めると、それまで自分たちが抱いていた信念などは水際のアシのようにザワザワ揺らぎ、冬の重暗い空とも相まって、抜け出せないほどの深い沼に心が沈み込んでしまうのです。こんな些細な出来事で自分たちがここまで落ち込んでしまうということが不思議でしたが、もうすでにずいぶん追い詰められていたのかもしれません。


今年は珍しく雪が降らず、雨と霧のクリスマスでした。

夜外に出てみると、いつもなら真っ直ぐに見通せる道が、深い霧の中に消えていました。

(佐賀新聞 2022年1月掲載)

【第118便】「ここにいる意味」_b0290617_14134592.jpg


次回は2月15日(火)更新予定です。



by mag-ikeda | 2022-01-15 14:20