池田学 マディソン滞在制作日記


by mag-ikeda

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池田学 / IKEDA Manabu

画家。1973年佐賀県多久市生まれ。1998年東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。
2000年同大学院修士課程を修了。 2011年から1年間、文化庁の芸術家海外研修制度でカナダのバンクーバーに滞在。
2013年6 月末より、アメリカ・ウィスコンシン州マディソンにて滞在制作を開始。

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58便 「細部と全体」

「細密描写」「超絶技巧」

僕の作品が紹介される場合、ほとんどが細密画特集においてなのですが、それにいつもちょっと疑問を感じてしまいます。
疑問というか、何かちょっと違和感があるというか….
もちろん細密画であるのは間違いないのでそのカテゴリーに入るのは当然と言えば当然なのですが。


僕の中で「細密に表現する」という行為は細かく物を描写することも好きですが、それによって「大きな立体感を生み出す」ために必要不可欠なプロセスだからです。
目の前の大きな山だって、一つ一つの樹や岩の集合体です。
それら樹や岩にも明暗があり空間がある。
それら小さな部分たちが持つ空間が繋がっていって、やがてひとつの山という大きな空間が生まれる。
僕は、そうした空間を作るために部分を細かく描いているのです。
いわばペンで細密に描いていくということは、空間を大きく描いていくことと同じだと思います。

最も大事なのは空間も含めた大きな見え方。全体感。
部屋に入ってまず全体を見て、そこで興味が湧かなければ誰も近寄っては来ないでしょう。
僕の中では細部というのはあくまで付属品であって、一番大切にしているのが全体感なのです。
そういう観点の違いが、前述の違和感につながっているのかもしれません。




日本を出てから、これまで以上に空間を表現する事への欲求が強まってきました。
それはやはり、置かれている環境の変化に他なりません。
北米の大自然を前に、恐ろしいほどの広さに言葉を失う経験が何度もありました。
見晴るかす先まで延々と続く森。山。空。道。
日本で広大だなと感じていたスケールの何倍という物凄い広さに最初の頃は恐怖を感じたほど、そこにあるのは圧倒的な空間でした。
自分が自然物を観察する上でこれまで魅了されていた、「細部のディテールに宿る様々な表情の面白さ」に加え、「それらを内包しながらも圧倒的な空気感を持つひとつの存在」の持つ荘厳さに、ここで気付かされました。


この両方の視点を作品に取り入れたい!
というのが今回のテーマの一つでもありました。

これまでは6畳ほどのアパートの一室で大きな絵を描いてたので離れて全体を見るスペースなどなく、
全体像を常に把握できないぶん細部の描写に頼るところが大きかったのですが、今では十分すぎるほどに広いスペースが与えられている。
絵を壁にかければ全体を眺め、細部と全体を行き来しながら両方の視点で仕事をする事ができる。
これはここだからこそできる事です。




しかしいざ、この両者を同時に描こうとすると、ペン画という性質上、どうしても細部が優先になってしまう。
頭の中に大きな空気の流れのイメージがあったとしても、やはり視覚に直接訴えかけてくる細部のビジュアルにどうしても引っ張られてしまいます。
空気というのは目に見えない分、とてもやっかいです。

このままではいつもと同じになってしまう….
これまでと同じように細部をひたすら積み上げるだけではこれ以上の空気感は出せないなと、直感的に感じています。
しかし下手をすれば今まで積み上げてきたものが台無しになってしまう恐れだってある。
2年間描いてきた分、なかなかその執着を振りほどくのは容易ではありません。



正直、これまで通りやれば、よほどの事がない限り3m x 4m の大作は完成し、それなりに満足はできるものに仕上がる。
よくここまで描いたねとも言われるでしょう。
自分が言わなければ誰も気づかないし、やっぱりこれで良かったのかもな。と思える気がします。

しかし。
それはただ同じ事をより大きな画面でやっただけ。結局は自分が登れそうな山を登っただけ。



心のどこかで言い訳をしたくないのです。



新しい試みをしなければそこで進化は止まってしまう。
挑戦する不安さがあるからこそ、震えるような感動があるのです。


この数週間。
今回の制作の、今が間違いなく一つの山場です。

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# by mag-ikeda | 2015-09-11 20:46

第57便 「2年」

8月で制作開始から2年が経ちました。
最初は不安だらけだった美術館での滞在制作も、少しずつ小さな壁を乗り越えながら、今ではすっかり自分の場所らしくなってきました。
朝9時から夕方5時までという決められたスケジュールの中で仕事することも一般公開で制作中に他人の目に晒されることも、自分の性に合っていることがわかりました。
もともとが孤独でコツコツ積み上げていく地道な仕事、それゆえよほど静かで集中した環境が必要だと思われがちですが、むしろあまりに静かで孤独だと息が詰まってしまいます。
公共の場で他人の目の前で仕事をするということは、そうした静けさから解放されるばかりでなく、孤独な世界から絵を通して社会と関わっているという実感を僕にもたせてくれ、やりがいと刺激を与えてくれます。


最近ではリピーターもかなり多く、「最初の頃に来たけどすごい進んだわね!」と言われることが増えてきました。
また、新聞や口づてで僕のことを知った人の割合も高く、徐々にこの絵の存在がちまたに根を張り始めているのを実感します。


今回の絵は東日本大震災から想起されたもので、津波や地震で破壊された残骸なども出てきますが、もともと自然災害といえば稀に起きるトルネードくらいで、地震などまったくないアメリカ中西部の人々にとってこの絵がどの程度リアリティを
もって伝わってるか….
おそらく大きく違うでしょうが、それはそれとして皆一様に真剣な面持ちで画面を見つめているのを見ると、それぞれが何かしら感じてくれているんだなと嬉しくなります。



残りの時間はあと1年。わずか1年!
現時点で完成してるのは約50%ほど。これから上半分に取り掛かりますがさてさて何を描こうか。
いつも描きながら全体図を考えてるんですが、2年たっても未だに決めきれずにいる始末。
もうそろそろしっかり構図を決めないといけません。
それさえ決まってしまえばあとはひたすら突っ走るだけ!なんですがこれがまた…. なかなか決められない。

アイデアが浮かんでは消え、浮かんでは消え、
全体像はいまだ薄い霧の中です。

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# by mag-ikeda | 2015-08-25 21:56

第56便 「中島千波先生」

昨年末に嬉しい連絡を受けました。
百貨店の高島屋が主催する「タカシマヤ美術賞」を受賞したのです!
この賞は1990年に50歳未満の美術作家および美術文化に貢献した団体の助成を目的として設立された賞で、他薦によって申請されたのち、作品や活動歴などの審査を経て受賞者が決まるというものです。
今回は大学時代の恩師である中島千波先生が僕に内緒で推薦してくださっていたらしく、思ってもみなかったこのニュースは母国を離れて生活する身にとって久しぶりの日本との繋がりである事と同時に、遠く離れた故郷からの励ましにも似た心強さを感じさせてくれるものでした。
それは卒業してもなお自分の事を気にかけてくださる先生のお心遣いが、故郷の両親の親心と重なって思えたからに他なりません。


助成金200万円は制作中の3年間ほぼ無収入の僕にとって大きな支えになります。
そしてさらに嬉しい事に、授賞式に出席するために日本に帰れるというではありませんか!
久しぶりの日本のお正月を、しかも授賞式で帰れるなんて….嬉しさが沸々と湧いてきます。
本来なら僕だけ帰るところを、ちょうどビザの更新と重なっていたので家族全員で行く事になりました。



謹賀新年とビザの更新も滞りなく終わり、迎えた授賞式の1月19日。
場所は帝国ホテルです。
今回の受賞者は僕を含めて3人の作家さんと2つの団体。
現代美術家の小沢剛さんと漆芸家の笹井史恵さん、長崎ミュージアム振興財団と川崎市岡本太郎美術館。

思い返せば芸大の学生だった頃、高島屋でディスプレイのアルバイトをしていました。
閉店後の店内の案内板やショーウインドウの飾り替えのみならず、子供向けイベントのある時にはドラえもんやシルバニアファミリーの着ぐるみの中に入って風船を配ったものでした。
それがいまやその高島屋から賞をいただけるなんて、画業+貢献度を評価されたみたいで嬉しさも倍増です。



会場にはたくさんの方々。懐かしい顔も大勢あります。
スピーチで上がった壇上から皆さんの顔を眺めてるうちに、普段は思いもしないことですが、僕がマディソンでこうして作品制作をしながら外国の生活を謳歌できるのも、こうしたいろいろな方達からの応援
なくては出来ない事なんだと改めて気付かされました。

そして中島先生との数年ぶりの再会。
いつお会いしてもにこやかで屈託のない笑顔にこちらの気持ちもホッとするというか…ほぐされていくというか、
失礼を承知で言うならば、大好きな親戚のおじちゃんに会った時の安堵感に似ています。
大作家であるにも関わらずこちらが何でも話せてしまう気さくでおおらかな人柄と、作品に対する情熱と厳しくも真摯な眼差しで、先生は会うたびに作家としての大切な言葉をくださいます。

その先生から今回いただいた
「どんなに小さな作品でも決して手を抜いてはいけない。」
というお言葉。


またひとつ僕の中での肝に命じておくべき大事な心得になりました。

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# by mag-ikeda | 2015-07-10 18:20

第55便「日本代表!」

制作中同じ姿勢で長時間座りっぱなしの僕にはスポーツが欠かせません!
体を動かす事の方が絵を描くよりも好きな僕は、仕事以外の時間はほとんどスキーやクライミング、アウトドアの事ばかり考えています。

しかしこのフラットなウィスコンシン、山はあっても丘みたいなもんで、スキーもクライミングもバンクーバーとはスケールが比べ物になりません。
それでも無いよりはましと時間があれば足しげく通ってはいますが….。


マディソンに来てから新しく始めたのがインドアサッカー。
週に一度のお楽しみ。
我がチームはマディソンに住む日本人コミュニティーで結成された、いわば日本代表!
相手は週代わりですが、基本アメリカ人を中心にロシア、南米などデカい奴らがウヨウヨです。


全員がサッカー経験者ではないのでなかば食後のちょっとした運動にみんなで汗を流そう…とピースフルな雰囲気が漂うかと思いきや
どっこい試合が始まればそこはスタジアム、国と国との威信をかけたガチンコのぶつかり合いです!
ルールはアメリカ式?にちょっと変わってて、フットサルくらいのサイズのコート。
アイスホッケーのように周りが壁に囲まれているのでスローインはなく、壁を使ってパスも出来ます。
また人数は6人で、いつでも何人でも交代していい仕組み。
前後半25分ずつの50分。
スローインがないため休みなく走り続け、交代しないととてもじゃないがもちません。



それにしても外国人選手のがたいのデカさよ!
写真のチームは小柄なほうでしたが、それでもパワーの違いをまざまざと見せつけられます。
まともにディフェンスしようもんならはじき飛ばされて壁に激突。
歩幅も大きいのでスピートでも敵いません。
ブラジルやメキシコ系の選手なんか、それだけで数割増に上手く見えるし(実際上手いですが)そいつらがずらりと並ぶともうそれだけで萎縮もするってもんです。



いろいろな点で不利な我ら日本代表。
だからこそ相手を倒した時の爽快感はたまらないんだよな〜!!




いや〜それにしても。
少し前までテレビでのサッカー日本代表のふがいなさを度々はがゆく思っていたものですが、その大変さが今は身をもって分かります。
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# by mag-ikeda | 2015-06-09 21:15

第54便「タイムラプス撮影」

きっかけは偶然の出会いでした。

もともとここで作品を作るにあたり、記録用に進行状況を定期的に撮影したいという主旨の話は美術館に伝えていたのですが、いくつかのハードルがあって未だ実現には至っていませんでした。
撮影や機材に詳しくない僕には何を揃えてよいのか、またどのような方法で撮影をしていくのか、時間やコストは?等々さまざまな疑問があり、ぼんやりとイメージはできてもどこから手をつけていいか分かりません。
美術館側からは、天井からビデオカメラを取り付けて撮影する案がでたものの、その後の調べでいくつかの諸問題があって、その方法は難しいという事に。
そう言われるとどうしようもなく、かといって具体的な他の方法を模索する事にばかり時間を割くわけにもいきません。
機会があるごとに館長さんにどうにかならないか尋ねてみるもののそこはアメリカ、自分主導で強引にでも動かない限り何もやってくれません。

結局考えあぐねながらも制作はそのまま進み、気がつけば撮影せぬまま1年半が経過しようとしていたのでした。


その日はいつものように午後からのスタジオ一般公開で、数人の見学者が入れ替わり訪れていました。
その中の一人の男性が僕に話しかけてきました。
「制作状況を記録に撮らないのか?」

「以前から撮りたいとずっと思ってるんだけどいろいろと難しくて。美術館にも相談してるんだけど設営が大変らしくて無理だと言われたよ」

「そんなことないよ!タイムラプス撮影でやれば簡単にできるよ!絶対やるべきだ。」


彼の名はロブといい、自分もアーティストであることを僕に伝えると、自分の作品が出来上がるまでを撮影したビデオを携帯で見せてくれ、タイムラプス撮影がいかに簡単、かつプロセスを見せるのに効果的かをクドいくらいに熱弁します。
そして頼んでもいないのにてきぱきとスタジオ内の設備を点検し、美術館スタッフを読んで話し、なんとその日のうちに館長さんに直談判する手配まで取り付けてしまったのです!
なんたる行動力、いやそれよりもなぜ会ったばかりの赤の他人にここまで……
これまで遅々として進まなかったことが一人の登場によってここまで進展するかという驚き、またあまりにも出来過ぎた展開への一抹の不安….
ロブの言う、「こんなに時間のかかる作品のプロセスは絶対に面白いからみんなに見せるべきだよ」という言葉をそのまま鵜呑みにしていいんだろうかという疑念にかられながらもあれよあれよと計画は進み、
数々の難問をクリアし、撮影にかかる機材やコストを計算し、それを美術館側に書類として提出するところまでをこなし、数週間後には館長さんからの了解を取り付けたのでした。



ちなみにタイムラプス撮影とは、カメラをある場所に設置しっぱなしにして、数十秒に一回シャッターを切り、それらの写真を数百、数千枚とつなげてまるで動いているかのように見せる撮影方法の事で、夜空の星の動きをテレビなどで見た方も多いと思います。
僕の作品は時間が年単位でかかるので、この方法で撮影し、展覧会などで鑑賞者にそのプロセスを見せるのはどうかという提案がかねてから持ち上がっていたのでした。



設営当日、ロブの強力な助っ人としてマディソンのカメラカンパニーで働く男性クライトンを紹介してくれました。
ロブは普段カリフォルニアを拠点に制作しているので、目下のところこのクライトンが今後撮影から備品の準備に映像の編集まで一気に引き受け、ロブを司令塔に最後まで関わっていきます。
僕の心配していた、何か金銭的な思惑のようなものも一切ないようで、設備はクライトンの会社のものを使ったり、必要経費は寄付金を募るなどしてやるとの事。
とにかくこの作品のプロセスを映像におさめる事が自分達にとってワクワクする経験だと。
僕にはちょっと想像し難いその情熱の源ですが、これもいいと思ったものには労力を惜しまないアメリカ人独特の考え方のような気も、しないでもありません。
躊躇して断ったところでまた振り出しに戻るだけ、何も動きません。
これもきっと縁。チャンスに乗っかってみる事に決めました。



そうして作品制作の初の試みのひとつ、タイムラプス撮影はようやく動き出しました!

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# by mag-ikeda | 2015-05-15 18:39